年に一度の「大騒ぎ」

それは、Aイチの獣医さんへ行く日である。
年1度の予防接種を兼ねた定期健診、実はちょっと遅くなってしまったが、
近所の獣医さんに予約を入れた。
私はというと、前の日から相方に、
「あぁ、明日出来るだけ怖がらせないで行けたらいいなぁ・・・。」
と、話していた。
頭の中はシミュレーションでぐるぐるしていた。
「仕事から帰ってきて、何事も無かったかのように、部屋でごろごろして、
時間の15分前になったらそーーーっとキャリアに入れて・・・。」


作戦は成功に見えた。
当日、私の部屋の電気カーペットもどき(実際は電気毛布を床に敷いている)の上で、
ぐるぐるとくつろぐAイチ様を、見事キャリアに治めた私。
キャリアの中では、「何を〜、ちくしょー!僕を騙したな〜!」
と怒りの雄たけびを揚げるAイチ様。
「ごめんね〜、ちょっとの間だから我慢してよ〜」
と声を掛けつつ、キャリアを持って、リビングに移動した私。
何と、このぽんこつキャリアのゲートをAイチ様は蹴破り、
「うぉ〜ん!」と言って、走り去ってしまった。


解かってるの、嫌なんだよね。こんな狭い処に入れらるなんて・・・。
と、半泣きになりつつも心を鬼にして、
Aイチを見つけては、数度キャリアに押し込むのを試みる私。
Aイチの人の(ネコ?)良さが出るというか、
怖がって、ランドリールームの向こうの家主の大量のミシンのがれきの向こうにある、
天窓近くの彼の隠れ家に逃げ込んだのかと思いきや、
「Aちゃん、マミーだよ。おいで〜!」
と呼ぶ、私の声に「うっかり」反応してしまい、
のこのこ出てきてしまうのであった。
それを、私が「がしっ」と捕まえて、キャリアに入れようとするので、
またそこで、「おぬし〜、計りおったなぁ!」
と怒って、逃げ出すのである。


その様子を見るたびに、「あぁ、これでもう当分だっこさせてもらえない・・」
とブルーになる私。
相方も、このAイチ様の必死さには驚いていたが、
最後は、ベッドの下に潜むAイチを、相方が怪力でベッドを持ち上げ、
私がむんずっと捕まえて、キャリアに入れるのに成功。



車の中でも始終、「いやだ〜帰りたい〜、出してくれ〜」
と言わんばかりに、啼き続けるAイチ。
動物病院に着くと、しばらく啼いていたが、
診察室に入ると、途端に硬直したのか静かに。
ナースのおじさんに、「じゃぁ出してみましょうか。」
と言われて、きっと逃げ回るんだろうなぁと思いつつ、
恐る恐るキャリアの出入り用のドアを開けると、
飛び出すこともなく、じーーーーーーっと中に居る。
きっと外に何があるのか、怖くて出られなかったんだろう。
結局、上半分をぱかっと開けて、診察台の上に乗せると、
そこでも、硬直した状態で、にゃんとも言わずに、
おとなしく診察を受けた。
注射は二本も打たれたのだが、一本目は無反応で、
二本目でようやく痛いと気づいたらしく、「いたぁい!」とでも言いたげな、
「にぃやぁぁぁぁ」という声を上げた。
まるで、我が家での格闘が嘘のように、おとなしくキャリアのドアから
中に戻されたAイチ。まさに典型的な「内弁慶」である。
お医者様からは、「いい子だね〜」と太鼓判を押され、
健康状態も良好とのことであった。
何だったのだ、あの私と相方の格闘は?


そして、お会計が済んで、私が「さぁ帰るよ〜」
と、声を掛けた途端、「にゃーーーーー。」と啼き始めた。
家に近づくのが解かるらしく、その鳴き声は、
家の前に着いた時は最高潮に達していた。


家のリビングで、ようやくキャリアからお出まし頂くと、
だだだだだっと走り出し、しばらくは抱っこさせて頂けなかった。
相方は、「よー頑張ったな〜」と、いつもより多くおやつを遣っていた。
Aイチの怒りの持続時間は短く、
約1時間で普段どおり、ごろごろと足に身体をすりつけ、
私の膝の上でごろごろ言っていた。
どうやらAイチ様に、お許しを頂けたようである。