毎回違った視点で読める源氏物語

具合が悪い時に、「学校が暇になってから」と取って置いていた、
俵真智の、「愛する源氏物語」を読んだ。

愛する源氏物語

愛する源氏物語

源氏物語が好きというのは、前にも書いたのだが、
春は、源氏の生涯、一の人と言われた、紫の上の季節である。
たおやかで、強くて賢くて優しい、萌えいづる春が好きと言う、
紫の上は、名前に似合わずピンクのイメージである。
我が家の家の前の水仙も咲き始め、
まだまだ肌寒いのだが、それでも幾分春の気配は見え始めている。


桜というのは、春の代名詞だが、
その花を愛でるひとときの儚さであるとか、
薄いピンク色というほのかな温かさを感じる色であるとか、
情緒という独特の感性を持つ日本人が好むのにふさわしい花だと思う。
もののあわれやわびさびという感覚は、
本当にアメリカ人には教えることの出来ない難しい日本語だと思う。
(少なくとも私の語学力では、まだまだ足りないと思う)


源氏というのは、とにかく稀代のプレイボーイとして有名だが、
紫式部と言う人は、本当に賢い人だったんだなぁと思う。
この「地位も名誉も美貌も」と三拍子揃った、
平安時代の色男の人生を、波乱万丈に様々な酸いも甘いも織り交ぜて、
「・・・で結局、色んな女性にモテモテだったけれど、
人生の最後は幸せだったのか?」
という命題が問うのである。
昼ドラとかのどろどろなんて真っ青なくらいの入り組んだ人間関係、
政権争いや、身分の違う恋、忍ぶ恋、若かりし頃の身の程知らずの無鉄砲さ、
年を取ってからも尚、初恋の君の面影を追いかけてしまったり、
そしてとうとう本当に一番大切な人の出家したいという望みを叶えてあげられないまま、
死なせてしまったと言うことを悔いて、自分の人生も幕を閉じるのである。
それを「一世一代男のロマン」と捕らえる人も多いけれど、
私にしてみると「色々遊んで見たものの、結局幸せだったのかねぇこの人は」
という感想に終わる。


紫式部はどんな気持ちでこの物語を書き進めていったんだろう。
「もう、この源氏って本当におろかな男よね」
という、一見冷めた視点が見え隠れするから面白いのである。
私が思うに、紫式部は、光源氏を理想の男とはつゆとも思ってなかったと思うのだ。
俗に言う「立派な男」が実はとっても情けない男だったりするというのは、
時にすごく色っぽいことでもある。
「だめな人ね〜。だから私が居ないとだめなのよね〜。」
というのは、完璧の女性の母性本能に訴える感覚である。


光源氏は究極のマザコンなのだ。
若くして亡くなってしまった母、桐壺の更衣の面影を生涯捜し求めるのである。
会ったことが無いし、当時は写真ももちろん無いから、
最初に、父帝の下に入内した藤壺の女御が桐壺の更衣に似ているというのを聞いて
恋に落ち、それからはひたすら「藤壺に似ている、縁がある女性」に興味を持つ。
本人は、「生涯藤壺の影を追ってしまった」つもりだが、
最初の最初は桐壺、つまり母の面影を追っていたので、
お母さん探し、「母を訪ねて三千里」のマルコ状態だったのである。


で、遂には、藤壺の女御と縁続きの兵部卿の宮の落とし胤である、
紫の上を、後見するといいつつ、自分の妻にしてしまう。
世に言う、「自分の理想の妻をイチから作る」という究極の男性にとっての理想の関係
を作り上げるのは有名な話で、源氏と言えばこれ!と言われるエピソードである。
晩年、女三宮という兄朱雀帝の末娘が源氏のもとに降嫁して、
そのことで、今まで連れ添ってきた紫の上に辛い思いをさせるのであるが、
これまた一説では、藤壺に似てるのかも・・・・などという
おじさん、またまた初恋の君に現を抜かして色気が出たという話もあるし、
漫画のあさきゆめみしでは、昔の年上の恋人、
六条御息所の怨念も重なって・・・・という解釈もある。
私は根性が悪いのか、
「わはは、今までの好き放題の果てにやってしまったね〜源氏くん。」
という気持ちでこの辺りの筋を読んでしまうのである。
源氏って、色々やらかしても結構憎まれないお人なのであるが、
(六条の怨霊には取り付かれてるけれど、これも「愛して愛して愛しすぎちゃって」
という、嫉妬によるもので、決して「憎い!憎いわ!」
という風には訳されていないのである。)
私は、あぁ〜もう〜しょうがない人ね〜。また?
あぁ懲りない人ね〜と読んでしまうのだ(笑)


俵万智の、折々の和歌の現代訳は素晴らしかった。
わかる〜。そうよねそうよね、と頷くことも多かったし。


ということで、源氏物語、日本の生んだ名作、
是非何かの折に、読む機会があったらお試し下さい。
ちなみに、私は大和和紀の「あさきゆめみし」で大体の流れを掴んでから、
円地文子与謝野晶子谷崎潤一郎瀬戸内寂聴田辺聖子俵万智
に至りました。
漫画からかよ!と仰るなかれ。
大和和紀の解釈も素晴らしいし、一つの物語としての上手に完結しています。
お勧め。