心頭滅却したい

ルームメイトのDとMは、バレンタインデーに婚約したそうだ。
来月には入籍するらしい。
子供が産まれるので、いち早く済ませておきたいんだろうし、
もう出て行くのも時間の問題なので、
私がもう気を揉む事も無くなる。
めでたい。


彼女は、結構もう浮かれ気分なのだが、
同時に、ぴりぴりしてたりもする。
(妊婦さんなので、なるべく大目に見ることにするけれど)
彼女は、とにかくうちの相方にはやたらと愛想がいい。
で、文句、自慢話、などなどは、
彼が居ないところで行われる。


この前も、目を吊り上げて、
「私のゴム手袋知らない?黄色いの!」
と聞いてきた。
私はこういう事態が、1年も前から予想していたので、
こちらで主流の黄色は避けて、
「黄色と青のツートン」の手袋を使っていたので、
「知らない。私のは黄色と青の奴だし。」
と、伝えると、
悔しそうに、その場を去った。
翌朝見ると、彼女は新しいゴム手袋を買っていたが、
「これは私のよ!」言わんばかりの、ピンクのゴム手袋だった(笑)


ある時は、
「私の紅茶、置く場所が無いのよ。だから、この棚の一段、使いたいんだけど!」
・・・元々、彼女の物が置いてあった段だったので、
何を今更と思ったら、
何もそういう事は気にしない相方が、
丁度彼の紅茶の缶を置いていた。
「あぁ、ごめんね。彼、あんまりこういうの気にしないから。
ほら、私達が来る前って、男同士、物の置き場所の分担なんてしないで、
過ごしてたでしょ。」
と、やんわりと、説明して彼の紅茶の缶をよけて、
物事は解決したかに見えた。


すると、棚の中の物を出し始め、
「これ!日本語でしょ?」
と、古いルームメイトDが昔買った中国系のインスタントラーメンを、
私に突きつけた。
この人、こういう話し方しか出来ないんだなぁと思いつつ、
「最初に、これ中国語だし、それにこれあなたの彼氏が昔買った物よ。
彼、忘れてるかもしれないけれど。私の物じゃないから。」
と、説明すると、バツが悪そうに、
「あ、そう。」
と言って、さっさと捨てて、その棚を整理し始めた。


一時が万事これなのだ。
彼女は、もう使い勝手が悪いことや、
自分がわからないことは、全部私のせいにしたいのである。
付き合い切れないのだが、
あいにく、これをされるのは私一人で、
相方の前ではやって下さらないのである。
その辺は、心得ているようで、
私がそういうことで文句を言おうもんなら、相方には、
「くだらない」と一蹴され、
仕舞いには、人の悪口を言う女にされるのがオチなのである。


おまけに、彼女のやり口というのは、
彼女の学校の友達が家に来た時、
キッチンとかで話をしているのだが、
そこに私がたまたま部屋から出て行くと、
おびえた顔をしてみせ、階段を下りる私に、
半分聞こえよがしに、
「・・・・ほら、きっと私の声が大きすぎたから」
とか言うのだ。
被害妄想もはなはだしい、
そして、それを自分がとっても同情されるように、
言うのである。


しかもポーランド人の友達に普段はポーランド語で話すくせに、
そういう時は英語なのである。
その他、
「私は完璧主義者だけど、彼女は日本流の完璧主義者だから。」
とか話している。
・・・陰口になってないよ、あんた、
と言いたくなる。


耳がいいって困るってこういう時思う。
聞きたくなくても、聞こえてしまうし、
(超能力とかそういうのでは無くて)
私は、職業上、人と話している時でも、
聴覚の3分の1程度を、周囲に向けていたり
(決して集中していない訳では無く、従業員同士で話していても、
他のスタッフがどういう応対をしているかとか、気にしてなくちゃいけなかったり)
遠くに居るお客さんの気配を察するとか、
そういうことをしていた為、しょうがないのである。


こういう時、本当にこういう事に煩わされない為にも、
心頭滅却して、仏様のようになりたいと、
心から思うのだ。
まだまだちっちゃい私である。
そんな彼女を、慈愛に満ちた心では、
まだまだ見守れないのである・・・。


「あぁ、イライラしてるのね。」
「何とかして自分は悪くないと言いたいのね。大変ね。」
と、流すようにしているのだが、
そんな私でも溜まることはあったりするのである。
あぁ、本当に仏様のような心が欲しいっす。