その日は二人とも休み、嫌な予感は的中

二人とは、私とルームメイトの彼女Mである。


最初はよかった、というかいつもだけど、お互いに好き勝手に過ごしているので、
係わり合いも無く。


が、しかしである。彼女が熱心にバスルーム掃除をしているのは、
階上からの音で察していたが、
その後、上にあがると、キッチンのゴミ箱にバスマットというか、
洗面所に置く足拭きマットが捨てられていた。
私が二年ほど前にIKEAで買ったものだ。


・・・・・・。どうして勝手に捨てるのかねぇ、と思いつつ、
ちょっとむかむかしたし、こういうのをじーーーーっと、我慢するのも、
精神衛生上良くないと思ったので、思い切って、
彼女のドアをノックした。
「あの、あの丸いマットなんだけど、何で捨てたの?」
と穏やかに聞いたんですけれど、
「あれ、もう痛んでいたし、ゴムの部分が床を汚すから。気がついてた?そういうこと?」
この聞き方はちょーーーーっと、むかついた。
「気がついてた?」だと?
ええ、気がついていましたとも。で、人知れず、
使い古し歯ブラシでこしこしと床をこすっていたわよ。
でも、ここはぐぐっとこらえて、

「あなたは知らないかもしれないけれど、私も一応掃除はしてるのよ。だからあなたの言ってることは判る。けれど、あれ、私が買ったものなんだけど・・・一応、そういう場合、捨てても構わないけれど、一言私に言ってくれるのって道理じゃないかと思うんだけど。」
というと、
「彼に聞いたら捨てても構わないって言うから。それにあれもう使えないものだし。新しいの買おうと思って。」
かなり彼女も必死だった。

「彼に聞いたんならしょうがないよね。彼知ってると思ったんだけどな、
一緒にIKEYAに行った時に私が買ったって。でもきっと忘れてるんだと思うから、
ま、そんなのはどうでもいいわ。ただ理由が知りたかっただけだから。知らなかったならしょうがないよね。」
と、こいつには何を言っても埒が開かないと思ったので、
切り上げようとすると、
今度は必死に食いついてきた。

「そんな大した問題ではないのに、何で私がそういうことを持ち出すのかが判らない」
と言い出すし。

「あのね、一応一緒に暮らしているわけだし、色々あると思うのよ。
あなたにはあなたのやり方があって、私には私のやり方があるし。私はあなたの物は黙って捨てないし、触らないようにしてるし。あなたも彼に聞いたっていうんだし、もう要らないって思ったんなら、別にそれはそれでいいの。お掃除してくれてるのはありがたいし、私はそれも感謝してるし。」
今度は、ゴミ箱からそのマットを引っ張り出して、
「判った、洗って元に戻すから。」と言い出す。
私が言ってるのはそういうことでは無いのだ、わかんないかなぁ、こう、
人をリスペクトするってこと。

「もうそれはいいから。ゴミ箱に入ったものはゴミだし。ただ、新しいのを買うのは、もし私のためにするんなら、それは止めてね。自分が必要で買うならそれは自由だけれど、それを穴埋めする必要は無いし。どうせ古い物だから。」
彼女が、一応「あなたの物を捨てたのは悪かったわ。」
と謝ったので
、「知らなかったんだからしょうがないし。ただ、私はこういうのを内に留めて、うだうだ考えるより、きちんと伝えて、理由がわかることの方が大事だと思うから。気を悪くしないでね。」
と、一応フォローして部屋に下がった。


その数分後、やっぱりやりきれないのか彼女が下に下りてきて、
「掃除の分担って決めた方がいいんじゃないかと思って。週に1回なら1回で。」
と言い出した。
いいっすよ、別に週に1回だろうが2回だろうが。
「お互い、使ったらきれいにするってのがいいと思うの。キッチンのストーブとか、使ったらきれいにしといた方がいいし。」

(・・・それはこっちの台詞だ、キッチンはいつも私が片付けてるんじゃ!
それに、悪いが汚してるのは男性陣なのである。
後をついてまわって一生懸命なんとかしようとしているのだが、
やっぱり、「ピザ食べた後もそのまま」とか、
カウンター周りは汚れたままで放置されてることもあったりするし。
っていうか、あんたのキッチンスポンジカビくさくなるまで使ってて、
その臭いが私のスポンジに移るのも嫌なんだけど、とか、
私が、一生懸命スポンジや三角コーナーや流しのストレーナーを滅菌処理してるとか、
どうも私と彼女のきれい・汚いの定義が違う気もするんだけど。)

という気持ちを抑えて、
一応、彼女が「大好きな」バスルームを、私がキッチンとリビングをやるということで、片をつけた。
・・・ってか、あんた

シャワーカーテンのカビ取りをしたのはあたしだ!!!!


黒かびが出ても放っておいてるくせに、何を抜かすか!である。
っていうか、まじめに私は咳が止まらなかったのである。
でも、彼女が意気込んで掃除しているところを手直しするのは、
彼女のエベレスト並のプライドを傷つけそうなので、
いつやるのかと思って見ていた。
バスタブやフロアは掃除しても、絶対にそのカーテンはそのままだった。
こらえ切れずにカビ取りしたらすっきり。
咳もなくなりましたけれど。


私にしてみれば、マナー違反は彼女なのだが、
しょうがない、知らなかったんだし、と収めようとしているのに、
今度は輪をかけて、ルームメイト(男)の方が帰宅して、
「君達・・・大丈夫?」と私に探りを入れにきた。
「あぁ、でももう私達話し合ったし、一応まとまったと思うんだけど。彼女、まだ気にしてるの?」
と聞くと、
「彼女、繊細だから。」・・・・言っておくが、私だってかなりの気にしぃである。

「・・・ま、私もある意味繊細なんだけど。やっぱり理由も判らずに、自分の物がゴミ箱に入ってたら、一瞬びっくりするじゃない?一応、こういうことって内に溜めてると後々しこりが残りそうだし、そういうの嫌だからきちんと話したかっただけだし、
彼女が知らなかったって言ったから、理由がわかればそれでいいってことだから、
彼女にはあまり個人的なことと捕らえないでって言っておいてくれない?私も、別にいじめたいとか嫌な奴になろうとか、そういうことじゃないのよ。そういう意味で、きちんと正直に言っておかないとって場面あるでしょう?それで、理由が判れば、それでよしなんだし。」

と、何度も「理由がわかることで理解しあえる」という部分を強調した。
そうなのだ。私は女の子同士の探りあい的なことは、
大の苦手なのだ。

大雑把で豪快なフリをしていることの大変さなんて、わかんないんだろうなぁ。
本当の私のことを知ったら、きっとかなり驚くんでしょうねぇ。


多分、私はこのことは相方には言わない。
下らんことだからだ。
もうその手のことは、私の食材を床に放置されたり、
ご飯捨てられたりってなことを言ったって、
どうせ私の肩を持ってくれるわけじゃないし、
彼らの良かれと思ってやったという部分がフォーカスされるだけだからである。


私は精神論の意味で
「一緒に住まうためのマナー」を話したいのであって、
悪口を言いたいわけじゃない。
でも、それって、私の押し付けなんだと思って、
こらえているのである。
彼らの「よかれと思って」という部分を一生懸命見ようと努力しているのである。


でも、大方、ルームメイトから彼の耳に入り、
私がまた意地悪したみたいに思うんだろうなぁと思うと、
めんどくさくて、本当にこの家から出て行きたくなるのだ。
っていうか、そんなに私って信用ないのかね、と思う。
確かにね、共用部分は頑張るけれど、
自分の個人的なスペースは適当ですから。
そう思われても仕方ないのかなぁ
(でも決して汚屋敷状態なんではなくってよ。片付けは下手だけれど。これでも、こっちに来てから、私にすれば相当頑張ってる方なのよ。信じて。)


か弱いふりしていた方が、いいんですね、世の中。
デリケートなふりして、弱者を装った方が、
世の中、
「まぁ、かわいそう」
「まぁ何てことでしょう。」
と言ってもらえるんですね。


こんな私だけれど、知る人ぞ知る、
「耐える女」で、
「かなりの小心者」で、
「かなりの気にしぃ」なんですけれどね。
見かけが強気って、だわ。
でも相方はそういうか弱い女は好きじゃないし、
本当は私なんざ、そんなこと言われたら、
大きな音は怖いわ、カビが嫌いだとか、
共用スペースを何とかきれいにしようと頑張ってみたりとか、
やってるんですけれどね、これでも一応。


・・・価値観の差って言ったらそれまでかしらねぇ・・・。
誰か助けてくり〜。