他人と住むのは難しい

ただでさえ、結婚したカップルが一緒に暮らし始めて、
初めて気づくお互いの生活習慣などの違いを、
「愛」を持って乗り越えているというのに、
全くそういう物が介在しない人間と、
一緒に暮らすというのは大変なことである。
私は現在、相方と相方の親友との3人暮らしだ。
こちらに来て1年半、最初はどうしたら良いのか判らなかったが、
とにかく色々観察したりしつつ、
なるべくお邪魔にならないように生活してきたつもりだった。
元々男二人の気楽な生活に、私が飛び込んだのだから、と思っていた。


が、しかしである。
私も、もうお客さんではなく、住人になっている今、
色々な不満も出てきた。
元々、根が小心者なのと、人一倍心配性なのが相まって、
「いや、相手は悪気は無いんだし」
「相手は家主の息子だから好きにやっていいんだ。」
「もしかしたら、それが嫌という感情は、私の勝手な言い分かもしれないし。」
などと、色々な譲歩案を自分の中に見つけようと思ったが、
でも、やっぱり納得が行かない。(根は頑固?)


私は決してお掃除上手ではないし、片付けも下手だが、
一応、当たり前のことはやっているつもりだ。
掃除機だってかけるし、食べた食器を洗うこともする。
自分の私物を片付けるのは苦手だが、
共有部分には少なくとも影響が無いように気は使っているし、
自分のデスクならデスクの範囲だけで、
自分のことは済ますようにしている。


唯一許せないのは、水周りが汚いことだ。
これは、もう背筋にぞぞ〜っと言うものが走るほど嫌いだ。
これは、私がこちらに来て気づいたことなのだが、
キッチンとバスルーム、この2点は特に汚いのが許せない。


そんな私だが、家で女が一人ということもあり、
当初は、学校もそんなに忙しくなかったことも手伝い、
最初は、何も言わずに掃除と食器洗いと食事の準備は私がほとんどやっていた。
相方はちなみに、気が向くといきなり掃除を始める男だ。
(数ヶ月に一度というレベルだが。汚ければもっとやるかもしれない。
でもそんなマイペースの代わり、私にもやれとは言った事が無い。
その代わり、やっても別に感動もしないのだが・・・)


そして、相方の親友、ルームメイトは、本当にやらない男だ。
食べたお皿はそのまま。使ったグラスは、家中、たまには外にまで放置。
飲んだビールの缶はそのままである。

料理は上手だが、年に数回、
物凄い懲りまくって作る。
「ほら、俺グルメだから。」と言うのを主張するための料理である。
女の子を落とすのにもよく用いられるのだが、
ま、そんな理由は個人の自由なので、私がどうのこうの言うつもりはないが、
使った鍋、皿、調理器具、全てが油ぎとぎとのまま、放置される。
これを繰り返されると、どんなに美味しい料理を出されても、
「・・・で、この鍋の山を片付けるのは誰?・・・私なんでしょうねぇ。」
という気持ちが先に立ってしまい、
「美味しいお料理ありがとう!」という純粋な感謝の言葉すら、
忘れてしまいそうになる。
そして、皆に絶賛されて天狗になっているのか、
ある日、週に2回も料理をしているのを見て、
「あれ?またお料理してる〜。どうしたの?」という私の問いに、
「ふふふ、君はそこまでラッキーじゃないよ。これは彼女のために下ごしらえしてるんだ。」と言い出した。
悪いが、今の私は、君の料理に感謝するどころか、
その後片付けを考えて憂鬱だってのに・・・。
ということで、一言
「いや、私のために料理するなんて思ってないけれど、料理終わったら、ちゃんと片付けてよね。」
とだけ言って、私はその場を去った。
それを言うまでに、1年半かかった。何と小心者の私なんだ。
でも、その日は、「はっ」と思ったらしく、
きちんと片づけをしていた。やれば出来るのである。
だから、いつもは「やらないだけ」なのだ。


がしかし、それが継続したかというと、答えは「No」である。
翌日からは、また食器が放置される生活に戻った。


私も我慢しようと努めたが、
そんな彼に彼女が出来てから、
その使用済みの食器の増えるスピードが二倍になり、
もう私の親切心では片付かなくなってきた。
しかも、頭に来る事に、自分の部屋「だけ」きれいにして、
彼女との時間を素敵に過ごすために、ワインを買い込み、
冷蔵庫にはチョコレートやら、つまみやらを買い込み占領し、
ことごとく、食器を使っては置きっぱなしにし、
まな板は食べ物のかけらをこびりつかせているのである。
使うのを見るたびに、
「それを洗うのは誰だ?使ったグラスを使いまわせ!」
という言葉が喉まで出掛かっていた。


相方に相談しても暖簾に腕押し、彼も言いたくないのである。
ひとつ言われたことは、
「いいよ、奴の使ったもの洗わなくても」
だけである。
生理的に気持ち悪いという、精神的な苦痛はわがままとして扱われたらしい。
しょうがないので、心を鬼にして、
どうしても臭いそうなものだけ、こっそり処理をし、
グラス類に関しては、自分が使ったものだけを洗うようにした。


すると、何が起きるか。そう、グラス類の在庫が底を着き、
私と相方が主に使用するタンブラーの類しか、棚に残らなくなった。
ワイングラスはバーのラックにぶらさげてあるのだが、
見る見る無くなった。
しまいには、お土産で買ってきたテイスティンググラスにまで
手を付けていた。


ここで、ルームメイトは何をしたか。
なんと、使うワイングラスが無くなった翌日、
新しいワイングラスを買ってきて、ワインを飲んでいた。
・・・金で解決する男なんだなぁ・・・洗えば、
うちには最低15個のワイングラスがあるというのに・・・。

と、「放置作戦」が失敗に終わったと、がっくり来ていたのだが、
なんと、その翌朝、私が、いつものように、
自分の使った食器やグラスを洗って、地下のバーを片付けていると、
私がどうもそのシンクに残った彼らの使ったグラスをよけて
洗っているのがようやく判ったらしく、
私がほかの事をしている間に、洗ってあった。


念ずれば通じたのか?はたまた、「こりゃ使うグラスがもう無いわい。」
と、思って必要に駆られて洗ったのかは知らないが、
どうにか、私の思いはその朝に通じた(ように見えた)ようだ。


果たして、週が明けて、この状況が続くのか・・・。
私とルームメイトの我慢比べはまだまだ続きそうである。