Aイチの変身


前にも書いたが、Aイチは遂に去勢手術を受けた。
驚くほどの変身振りに、
発情期に家に閉じ込めて、「外に出たい」と夜通し訴えていた
あの頃の彼のストレスが如何ばかりか、ということを、
逆に思い知らされた。
今では、また昔のおとなしいシャイなAイチに戻った。


手術の当日は飼い主の私が心配のあまり
食欲は無くなるし、頭痛がしてくるし、と
あたふたしていた。
当のAイチは、ケージの中では不安そうに鳴いていたものの、
術後の迎えの際は、私の想像よりはるかに元気だった。
痛み止めは4日分、注射器型のスポイトで口に入れてやるタイプで
処方された。
出血が若干多かったということだったのと、術後の疲れもあってか、
家に帰ると、ちょっとふらふらしていたが、
翌朝の食事解禁と同時に、今まで見たことが無いくらい
がつがつと食べていたので安心した。
(特別メニューで、鶏のささ身を湯がいたのを食べさせたのも
一因ではあると思うけれど。)


術後4日が経過した現在、穏やかな顔をして、
以前と同じように昼寝三昧で暮らし、夜は私がベッドに入るのを
じっと待っていて、一緒に寝る生活に戻った。
発情期中は眠りも浅いのか、早朝には、ベッドから抜け出て、
そわそわしていたのに、今では私が起きるまで寝ているという
ていたらくである。
外への興味は、まだ少しあるようで、術後、一度脱走をした。
けれど、帰りも早くて、数時間で戻ってきた。


その翌々日、私は家の前の道路で車に轢かれた猫を見つけてしまった。
遺体の損傷が激しくて、
もう獣医に連れて行くことも出来ない状態だったが、
私は勇気を振り絞って、その遺体を箱に入れて、うちの庭に埋葬した。
お線香に火を灯し、どうか安らかに眠って欲しいと祈った。


どうしてもそのままにしておけなかった。
私は自分がそこまで動物に執着する人間でも無いと思っていたし、
今でも、その猫の遺体を拾ってあげることが出来た自分に驚いている。


でも、もしも万が一自分の猫が、
どこかの道路で事故にあってしまったとして、
私の猫だと判らなかった場合、せめてどこかに埋めてやって欲しい、
もしくは、少なくともその道路に置き去りにすることだけは、
あって欲しくないと思うからだ。
それに、もしもそれを放置していたとしたら、
私はずっと一生後悔しそうだったし、
それから数日、
その遺体を見ながら暮らしていくことが耐えられそうに無かった。
自分を責めてしまいそうで、怖かったのかもしれない。


相方は、私が見ず知らずの猫にそこまでするのかと、
信じられないようだったが、
私の家の目の前で起きたことだから、
見過ごせなかったと話しておいた。


それと同時に、Aイチはやはり外に出すべきではない、
去勢は、この車通りの激しい家に住む以上、必要なことだったのだ、
と、改めて思った。
幸い、Aイチもストレスが少なくなり、幸せそうなのが救いだ。